そして、トラックダウン(2)
【 登場人物 】
▽ とあるプロデューサー(Fプロデューサー)
▽ とあるレコード会社の担当ディレクター(Bディレクター)
▽ とある音楽事務所の社長(C社長)
▽ とあるバンド(E)
▽ とあるエンジニア(Rec)
もうすでに日記形式である必要が無いような気がしないでもないですが・・・。
トラックダウンの時は、スタジオでの最終作業(楽曲が、世の中に出る形になる)ですから、今までみんなで作業してきた様々な思い、曲を作った側・売る側の思い、プロデューサー・ディレクター・メンバー・事務所の関係者・エンジニア・それぞれの思いが交錯し、飛び交います。
一緒に作業をしてきて、ある程度同じ方向性に向いているとはいえ、エンジニアは、そこにいる全員の意見を聞いて、判断し、まとめて、それを音に表現しなければなりません。
そして、自分も納得し、みんなも納得させなければなりません。
楽しくもあり、たいへん責任のある作業でもあります。
作業前にディレクターのBさんと、「だいたい一曲何時間くらいかかります?」「だいたい6~7時間くらいですかね。だから皆さんは、5時くらいに集まってもらえれば・・・」というやり取りがあり、それまでは一人の作業という事になりました。
大抵の場合、予算や、締め切り、関係者のスケジュールなどの関係で、だいたいの時間割は出てきます。
今回は「2日で3曲ペース」という、自分としてはやりやすいスケジュールで出来る事になりました。
プログラムによっては、一日に3~4曲、場合によってはもっと多くの曲数をこなさなければならない事があり、当然出来る事と出来ない事が出てきます。
その時間内に、最低限必要な事をやる為に、優先順位を考えて、ある程度切り捨てる事も必要かも知れません。
トラックダウンの作業は、一人でやらせてもらう事が多いです。
疲れていない新鮮な耳で聴いてもらいたいというのがたてまえですが、ネタをばらしたくない、いろいろ試したい、集中したいというのもあります(人によっては、まだやっている途中の時にいろいろ言ってきたり、今は違う事をやっているのに別の事を言ってきたりで、作業が中断したり効率が悪くなったりする事があるので・・・)。
Rhythm録りの時からダビングの間に、いろいろ注文があったり、みんなで試行錯誤した事や、自分なりに考えていた事を実際にやっていきます。
自分なりに「六合目」位まで出来たところで、「全体の雰囲気・方向性が間違っていないか」を確認する為にみんなに聴いてもらいます。
たぶんこの時が、一番緊張する瞬間です。
一通り聴いた後に、「し~ん」となってしまったらドキドキもので、「誰か何か言ってくれ~」って感じで、たまらず自分から切り出す場合もあります。
集中して聴いてコメントを考えているのか、でも、誰かが切り出すと順に意見が出てきます。
最初に聴いてもらった時に、自分のねらい通りに、聴きながらこっち見てニンマリ笑ったり、OKサインが出たりすると、これはもう「やった~!」という感じでエンジニア冥利につきます。
自分の中ではまだ途中なのに「OK!」とか「これでいい」とか言われると、うれしいけどちょっと複雑な感じですけど・・・。
方向性が違っていれば早期修正が出来るし、方向性が合っていれば、さらにどう進めて行くか、こういうのはどうか、自分の疑問点など意見の交換をして、場合によっては実際にやってみて比較して良い方を決めたりもします。
こういう時に、いわゆる「引き出し」が少ないと迅速な対応が出来ません。
メンバーなどが言った言葉をきちんと理解して、センス良く音で表現しなければなりません。
アシスタント時代に、たくさんの諸先輩のエンジニアの方の「技」を盗んだり、普段からCDなどを聴いて「技」の研究をしたりして、徐々にため込んでいった「引き出し」が威力を発揮します。
また、音を表現するのに、同じ「かたい」という言葉でも人によって思っている事が違っていたりするので、慣れてくるまでは「共通の言葉」を探すまでに時間がかかる事もあります。
そんな時は、イメージに近いCDなどを聴かせてもらって、理解するのが手っ取り早いと思います。
再び一人になって、完成に向けて作業を続けます。
何回かこういう作業を繰り返して、みんなが「OK!」というミックスが出来上がります。
最初にも書きましたが、みんなの意見・趣味嗜好に沿いつつも、いかに自分の色を出すか・・・。
ある意味、この「かけひき」が面白いのかも知れません。
10回に渡ってレコーディングの流れを追って来ましたが、もちろん全ては書ききれないし、つたない文章や専門用語で分かりにくい所もあったかも知れません。
読んで頂いて、初心者の方には「へえ~そうなんだ」、ある程度分かる方には「あるある」と感じて頂ければ幸いです。

